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つぶれた桜に
意味を感じられる人だった
満開の桜ではなく
花見団子ではなく
地面に落ち
人々に踏まれ
誰も気に留めないような
元の形がわからないようなものを愛でる
そんな彼女が好きだった
はずなのに、
一緒に時間を過ごせば過ごすほど
だんだんそこが気に食わなくなって来た
いちいち真面目で
いちいち優しくて
徐々に彼女が面倒になり
さらには苛立ち
時折
猛烈に罵りたくなった
彼女が褒めるもの全てを
くだらないと蔑むようになった
「昔はこうじゃなかったのに」
彼女が胸の奥から苦しげに囁く
自分の変化に気づかなかったわけじゃない
でも、どうしても止められなかった
日々
環境は目まぐるしく変わる
やった分だけ重くなる仕事の責任
常に比較され続ける周囲の圧力
親しかった人と理解し合えなくなる孤立感
全てが肩に重くのしかかり
何もかも無意味に思え
つぶれそうだった
昔と同じようになんて
いられるわけがなかった
「苦しいことにも意味がある」
彼女のその一言で
何かが音を立てて切れた
「もう、いいから」
ついに言葉にしてしまった
気づくと、彼女は姿を消していた
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