63人が本棚に入れています
本棚に追加
「友達でいいっていうのを便利だと思ってるのは深澤さんの方じゃない?」
「三柴くんのこともまんざらでもないし、口説かれるのも嬉しいんだよ。だから友達って言葉に甘えてる。」
「彼氏が同じ高校にいないのをいいことに、三柴くんにもかなりいい雰囲気で応じてるよね?それってずるくないかな。」
美紅が言えることは全て伝えた。
あからさまに深澤茉紘を卑下るすようなことは避けたが、暗に匂わせたつもりだ。
あの女はあまりお勧めしない。
きっと性格、よくないよ。
三柴くんには、もっといい子と付き合って欲しい。
正直、美紅には深澤茉紘の魅力がわからなかった。
確かにかわいいのだろう。それでも、もっとかわいい子もきれいな子もたくさんいる。
女から見た「かわいい」や「きれい」と、男から見たそれは、必ずしも重ならない、とはよく聞く話だ。男はああいった小悪魔的な反応を示す女に弱い生き物なのかもしれない。
三柴がそこまで惚れている人のことを悪く言いたくはない。
それでも、三柴がいいように手玉に取られているようで、美紅は黙ってはいられなかった。
そんな美紅の想いや三柴を案じる心は、彼に届いていたのだろうか。
結局、卒業するまで三柴の恋が報われることはなかった。
卒業式の日、三柴が美紅に言ってみせた。
「もっと女の口説き方、学ぶよ。」
冗談っぽく笑っていたけれど、間違いなく、三柴の目には淋しさが潜んでいて、美紅は無性に腹立たしくなる。
だから、力強く言い放ってやった。
「三柴くんが学ぶべきなのは、口説き方じゃない!女を見る目だから!」
不意にくいっとコートの袖をつままれて、美紅は我に返る。
高校時代から引き戻され、驚いて横を見ると、美紅のコートをつまんでいるのは三柴だった。
いつの間にこんなに近くにいたのだろうか。確か、二次会の店へと歩き出したときは、かなり前の方を歩いていなかったか。
「この後、ちょっと抜けない?」
ひそひそと耳元に持ちかけられた提案をすぐに理解することができず、美紅はまともな反応を返せなかった。
最初のコメントを投稿しよう!