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第一章 1
なんで、こんな展開になってるんだろう?
夜中の海ほたる、青く幻想的なイルミネーション。
その非日常感溢れる空間で、高梨美紅は一人の男に口説かれている。
「俺、本気だから。俺にしといた方がいいって。間違いない。」
満面の笑みで今にも美紅を抱きしめてきそうな男を前に、美紅は記憶を遡る。
ああ、そうだ…
あの再会から全てが始まったんだ…
**********
「まあ、とりあえず、俺のスーツ姿を見に来なって。」
携帯電話を通して聞こえる三柴拓人の声は、やたらと自慢気だ。
高梨美紅は苦笑しながら「そうだね〜…」と相槌を打つ。
確かに、お祝いくらいしてあげるべきかも。
二年も遅れた就職なんだし。
「ネクタイ締めた俺を見たら、高梨も惚れるかもよ?」
「三柴くんのネクタイ姿なんて、高校のときに散々見たけど?」
青みがかったグレーのブレザー、スカイブルーのシャツ、ボルドーのネクタイ。あの頃毎日目にしていた制服姿の三柴が自然と美紅の脳裏に浮かんだ。
「あの制服を着た高梨、ほんと可愛かったよな〜…」
どうやら、高校時代へと意識がタイムスリップしているのは三柴も同じようだ。
「可愛かったって、なぜ、力強い過去形?しかも、そんな名残惜しい声を出されると、まるで今は可愛くないって言われてる気になるんだけど?」
美紅の抗議に三柴が声を上げて笑う。
「褒めてるって。」
二人の間に流れるこの緩い空気、他愛もないやり取り。高校生の頃とまるで変わらない。変わらなさすぎて、無性にほっとする。
美紅と三柴は高校三年生で同じクラスになった。
進学校とされる高校での受験に向けた一年間。それが、暗く思い詰めたものにならず、むしろ楽しい思い出として美紅の胸に刻まれているのに、間違いなく三柴も一役買っている。
そんな気の合う男友達とも、卒業を機にすっかり疎遠になってしまった。
片や現役の女子大生、片や浪人生、そんな天と地ほどの差がある境遇では、無理もない。
日々、どこにも属さない不安と闘いながら勉強しなければならない三柴。美紅はそんな彼に気軽に連絡するのがはばかられた。
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