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当たり前のように美紅の手からそのガラス細工を手に取り、野崎侑が会計をしようとした際にはさすがに驚いて声を上げた。
「自分で買います!」
「いいよ。そんな高いもんでもないし。」
「でも!困ります!」
美紅が必死になると、彼はくくくっと笑い「じゃあ、困ってて。」と一向に取り合ってくれない。
店内でこれ以上の押し問答は不粋に感じられ、美紅は渋々引き下がった。
店を出た所で購入したバックチャームを渡され、美紅は「ありがとうございます。」と小さくなりながら受け取った。
「よかったな。」
よかった…のだろうか?
こんな風に野崎侑にバックチャームを買ってもらう理由などないのに。
それを言うなら、ここまで車で連れて来てもらう理由だってない。
それなのに、美紅は嬉しいと喜んでいる自分を感じていた。
そこには楽しいと浮かれている自分がいて、それはどう頑張ってもごまかせない真の姿だった。
美紅はたった今、渡されたばかりのバックチャームを手に取ってじっと見入る。
日の光にかざすようにして見ると色合いが変わって見えて、これもまた美しい。思わず「きれい…」と感嘆の声を漏らして、野崎侑に笑われる。
「よかった。そんなに喜んでもらえて。」
「はい。すっごく気に入りました。」
「桜、好きなの?」
美紅は「はい。」と満面の笑みでうなずく。
美紅は一番好きな花は何かと聞かれたら、迷わず桜と答える。あの薄いピンクの可憐な花が咲くと、毎年心が浮き立つくらい好きだ。
可憐なくせに、きれいな盛りに潔く散ってしまうところも切なくて美しい。
「じゃあ、今度は本物の桜を一緒に見に行こうか。」
「えっ…」
美紅の顔から笑みが消えて、ただただ驚く。
それなのに野崎侑は「約束。」と、たった一言で美紅との花見の予定を押さえてみせた。
今日、この一回だけではなく、この後も二人で会うことになるらしい。
もう展開が予想外すぎて美紅の頭が追い付かない。促されるようにして車に乗り込むのがやっとだった。
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