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この約束通り、美紅はその後に予定されていた関東学生ラクロスリーグ戦の試合の全てを見守るために、試合会場へと足を運んだ。
そして、フィールドを駆け巡る野崎侑の勇姿をひたすら目で追い続けた。そこで思い知らされる。
ああ…この人のことが好きだ、と。
野崎侑はまるでスポットライトを当てられているかのように光り輝いて見え、美紅は一時も目が離せない。
――俺だけ、見てて。
美紅の中には、あの日の彼の声だけが響いていた。
思えば、これが美紅への告白だったのかもしれない。
この言葉以外に美紅は自分への想いを彼からぶつけられた記憶がなかった。
付き合って欲しいと言われたわけではない。
好きだとも言われたこともない。
それなのに、いつの間にか二人で会うようになり、用もないのに連絡を取り合うのが当たり前になり、気付けば「美紅」と呼ばれるようになっていた。
美紅の気持ちははっきりしている。彼のことが好きだ。
だから、手をつながれた時もきゅっと握り返したし、唇を重ねられた時もそっと目を閉じた。
それでも、心のどこかではずっと首をかしげている自分がいる。
私たちって、付き合ってるのかな…
二人の間には決定的な言葉が出ていない。
今更「私のこと好き?」とか「これって付き合ってるの?」と確認するのも怖かった。
臆病にもほどがある。そう自分でも呆れてしまうが、やはり一歩踏み出すことができずにいた。
ある日、そんな美紅に向かって野崎侑が不満をこぼした。
「あのさ…いつまで名字で呼ぶつもり?」
「えっ?」
どうやら、美紅が「野崎さん」と呼ぶのが気に食わないらしい。
「付き合って二ヶ月くらい経つんだから、いい加減、名前で呼んで。」
衝撃のあまり、美紅は目を見開いて彼のことを凝視してしまった。
そんな、さらりと!
当たり前のように!
付き合ってるって!
え?
私たち、付き合って二ヶ月経つんだ?
野崎さんの中では、私はいつから彼女認定されてるんだろう…?
美紅の中で飛び交う驚愕と疑問。
それを何とか押さえ込み、美紅は尋ねた。
「じゃあ、何て…呼びます?」
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