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「侑以外あるの?」
「呼び捨てっ?」
さすがにいきなり呼び捨ては抵抗がありすぎて、美紅は何とか「侑くん」と口にした。
彼が納得の笑みを浮かべたことにより、美紅は堂々と「彼氏」のことを名前で呼ぶようになった。
二人が初めて一緒に迎えるクリスマス直前のことだ。
侑とのこんななりそめを、美紅は三柴にかいつまんで話した。
同じ大学に通っていた二つ上の先輩と、友達が繋いでくれた縁で付き合うようになった。
彼はラクロス部のエースで、工学部。卒業後はオフィスの移転やリニューアルを企画、デザインする企業に勤め、二級建築士として設計の仕事をしている。ゆくゆくは一級建築士の資格を取得して独立するのが目標らしい。
まとめてみると、簡単なことだ。
だが、こんな当たり障りのない説明では、先ほどの三柴の質問に答えたことにならない。
案の定、三柴は「高梨が誰と付き合ってるのかっていうのはわかったけどさー…」と言いながら顔を曇らせている。
「どういう男かっていうのは、全然、説明になってないじゃん?一緒にいると何が正解かわからなくなるって…何?」
先ほど美紅がこぼした一言をそのままリピートして、三柴が美紅をのぞき込む。その目は面白がっているというよりも美紅を案じているように見えた。
「例えばさ…私が彼が出場するラクロスの試合を応援しに行くでしょ?で、試合が終わった後に『私がどこに座って見てたかわかった?』って彼に聞くと…心底、嫌そうな目をされた。」
「なんで?」
「そんなの、わかるわけないだろ。こっちは真剣勝負をしてんだよ。そんな時に観客席を気にしてる余裕なんてない。俺のこと、そんな中途半端な気持ちで試合に臨んでると思ってたのか…って。」
「…」
「彼氏の試合を応援しに来てるんだから、彼にも私がどこにいるのかって気にしてもらいたい。好きな女が見に来てるなら、ああ、あそこにいるなって確かめたくなるものじゃないか。私は単純にそう思ったんだけど、でも、それは私の常識であって、彼にとっては違う。むしろ、馬鹿にするなって怒られた。」
美紅はゆっくりと三柴を見て、尋ねる。
「この場合、どっちが正しい?」
三柴が瞬きを繰り返す。そして困ったように「どっちだろ…」とつぶやいた。
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