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「高梨さぁ…なんでそんな曲者と付き合ってんだよ?」
「曲者って!」
三柴があまりにみしみじみとこぼすから、美紅は吹き出してしまった。
曲者か…なかなか上手いこと言う。
「曲者も一理あるけど…それよりも、やっぱり見え方や考え方の違いってことだよね。」
美紅はゆっくりとチャイナブルーを口に含んだ。
爽やかな甘さが美紅の内側に染み込んでいく。その甘さに後押しされるように続けた。
「桜って、開花すると日本人は浮かれた気分になるじゃない?お花見ってイベントも文化として定着してるし。」
突然持ち出された桜の話に三柴が若干戸惑っているのがわかる。それでもおとなしく耳を傾けてくれた。
「でも、きっと、桜を見て美しいって感じる人ばかりじゃないよね。日本人はみんな桜が好きだと思い込んでるけど、そうじゃない。その瞳に桜がどう映っているか、本当のところはわからないし、桜を見てどう思うかは人それぞれ。価値観が違えばその目に映るものも違って見える。」
「まあ…そうだな。」
「同じ桜を同じ時に見ても…私と彼は全く違うことを考える。」
美紅はそっと三柴から視線を外し、うつむいた。
「私は、その桜が彼の目にどんな風に映っているのか、よくわからない。五年近く一緒にいるのに…」
「五年か…長いな。」
三柴がほぅっと感嘆の息を漏らす。
「よくわからない曲者だけど、好きなんだ?」
三柴に顔を覗き込まれ、美紅は言葉に詰まる。
「よくわからない曲者だから、好きなのかも。」
長い年月をかけて向き合っても、未だに侑のことが理解しきれていない。だからこそ惹かれるのかもしれない。
付き合った相手に、こんなにも掴み切れていない感覚を覚えるのは初めてだった。
それに、美紅にとって侑はよくわからない男ではあるが、決して冷たいわけではない。
優しいところもたくさんあるし、何よりも彼の感性が面白い。美紅とは全く違う視点を持っているからこそ、侑の話は興味深かった。
笑わされることも多々ある。打ち込めるものを持っているのも素敵だ。
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