第一章 2

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「高梨さぁ…なんでそんな曲者(くせもの)と付き合ってんだよ?」 「曲者って!」 三柴があまりにみしみじみとこぼすから、美紅は吹き出してしまった。 曲者か…なかなか上手いこと言う。 「曲者も一理あるけど…それよりも、やっぱり見え方や考え方の違いってことだよね。」 美紅はゆっくりとチャイナブルーを口に含んだ。 爽やかな甘さが美紅の内側に染み込んでいく。その甘さに後押しされるように続けた。 「桜って、開花すると日本人は浮かれた気分になるじゃない?お花見ってイベントも文化として定着してるし。」 突然持ち出された桜の話に三柴が若干戸惑っているのがわかる。それでもおとなしく耳を傾けてくれた。 「でも、きっと、桜を見て美しいって感じる人ばかりじゃないよね。日本人はみんな桜が好きだと思い込んでるけど、そうじゃない。その瞳に桜がどう映っているか、本当のところはわからないし、桜を見てどう思うかは人それぞれ。価値観が違えばその目に映るものも違って見える。」 「まあ…そうだな。」 「同じ桜を同じ時に見ても…私と彼は全く違うことを考える。」 美紅はそっと三柴から視線を外し、うつむいた。 「私は、その桜が彼の目にどんな風に映っているのか、よくわからない。五年近く一緒にいるのに…」 「五年か…長いな。」 三柴がほぅっと感嘆の息を漏らす。 「よくわからない曲者だけど、好きなんだ?」 三柴に顔を覗き込まれ、美紅は言葉に詰まる。 「よくわからない曲者だから、好きなのかも。」 長い年月をかけて向き合っても、未だに侑のことが理解しきれていない。だからこそ惹かれるのかもしれない。 付き合った相手に、こんなにも掴み切れていない感覚を覚えるのは初めてだった。 それに、美紅にとって侑はよくわからない男ではあるが、決して冷たいわけではない。 優しいところもたくさんあるし、何よりも彼の感性が面白い。美紅とは全く違う視点を持っているからこそ、侑の話は興味深かった。 笑わされることも多々ある。打ち込めるものを持っているのも素敵だ。
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