第一章 2

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侑は大学を卒業後、ラクロスのクラブチームに所属し、今も熱い闘志でフィールドを駆け巡っている。 もちろん社会人という立場もあり、学生時代のようにラクロスに重点を置いた生活はできはしないが、それでもかなり真剣にラクロスと向き合っていて、そんな侑はやはりかっこいい。 試合を見に行くと、明らかに侑のプレーに歓声が上がり、きゃあきゃあ色めき立つ女たちの姿も見受けられたりするからさすがだ。 侑の中で一番になりたい。 口に出せないその欲望が、侑への想いを強くさせるのかもしれない。 手に入らないものほど魅力的に映る。自分がまさにそのいい例ではないか。それを侑に嫌というほど思い知らされている。 だからこそ、美紅は素直に自分の心を差し出せなかった。 美紅の心を完全に支配したと思われたら、ますます侑を捕まえられなくなるかもしれない。 何を考えているか理解しがたい侑への気持ちのぶつけ方が、美紅にはわからなくなっていた。 「高梨なら、もっと付き合いやすい男が選び放題だと思うけどな…」 「そんなにもてないってば。」 美紅は苦笑する。 そして「付き合いやすい男って…」と少々呆れ顔で付け加えた。 「ほら、高校のときに付き合ってた男…テニス部の。」 「今井くん?」 「それそれ!もう、明らかに高梨にべた惚れでさぁ。ああいう男の方が付き合いやすいんじゃない?」 「いや…惚れてくれるのはありがたいけど、心配性とやきもちも度が過ぎると困るよ。全然、付き合いやすくないと思うけどな…」 「でも、何を考えてるかわからない、なんて曲者と一緒にいるよりは幸せなんじゃん?」 私、今、幸せそうに見えない? と聞きかけて、やめた。そんなこと、わざわざ三柴に確認しなくてもわかる。 きっと、愛されて満たされている顔からは程遠い。 美紅はチャイナブルーのきれいな青に浮く氷をカランと揺らし、小さく息を吐いた。 「高校生のときはさ…好きな気持ちさえあれば、分かり合えるって思ってた。」 相手のことが好きで、一緒にいたいと願い、真剣に向き合えば理解しあえる。 恋愛とはそういうものだと思っていたし、実際、そうだった。 性格が合う合わない、という問題はあるにしろ、美紅の中の常識や価値観が揺さぶられることなどなかった。
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