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「高梨が一人暮らしね~…」
三柴が感慨深げにしみじみと言った。
「楽しいよ。快適すぎて困る。」
「それにしても、よく、あの親が一人暮らしを許してくれたな。」
「あっさり許してくれるわけないじゃん。」と美紅が苦笑すると、三柴も「やっぱり?」と笑う。
「そこは、もう、強行突破だよ。」
「なかなかやるじゃん。」
「やるときはやる女だから。」
胸を張ると、三柴が豪快に笑った。
「今度奇襲攻撃、かけるから。」という三柴の申し出を却下したところで新宿三丁目の駅に着いた。
「また、会おうよ。」
この申し出には美紅も「うん!」と力強くうなずき、「またね!」と手を振って三柴と別れた。
また、三柴に会いたい。素直にそう思った。
今度は六年ぶりなんて、そんな久しぶりの再会などではなく、気軽に会える間柄でいたい。
その想いに嘘はなかったが、お互いなかなか都合がつかず、交流はメールか電話という状態のまま二ヶ月が経ち、三柴が社会人の仲間入りを果たした。
「まあ、とりあえず、俺のスーツ姿を見に来なって。」
入社してまだ数日、研修中だという三柴からそう誘われて、美紅は承諾した。
三柴に言ってみせた通り、彼がネクタイを締めている姿など高校生の頃に毎日目にしていて、珍しくも何ともない。
それでも、制服と社会人としてでは、確実に何かが違って美紅の目に映るはず。そこには興味があった。
それに、何よりも就職祝いをしてあげたい。
単純にそう思ったし、研修が終わると店舗に配属され、恐らく三柴も忙しくなるだろう。そうなれば、またいつ会えるかわからない。
美紅にだって、三柴以外に男友達は何人かいる。大学のサークル仲間や文学部の同級生にかつてのバイト仲間…
それでも、三柴ほど心を開放して接することができる男友達はいなかった。
再会して改めて実感する。三柴は美紅にとって大切な友達なのだと。
「俺と二人で会ったりしたら、曲者彼氏に怒られない?」
電話の向こうで三柴が面白半分に心配してみせるから、美紅は笑ってしまった。
彼の中で侑はすっかり曲者として定着している。
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