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「大丈夫。そういうの、全く気にしない人だから。」
「いやいや、そういうふり、してるだけなんじゃないの?案外、強がったりしてるだけかもよ?高梨、そういうとこ鈍そうだからなぁ。」
口調はどこまでも美紅をからかっているが、そこに三柴の気遣いが見え隠れする。
かつてやきもち妬きの男と付き合い、苦労していた美紅の印象が拭えないのかもしれない。
だが、そんな心配は無用だと、美紅は断言できる。
「そんなこと、ないよ。やきもちとか、妬かれたことないし。私が誰と会ってるとかもあまり興味ないみたいだから。」
三柴が一瞬黙り込んだ。そして「マジで?」と小さく聞き返す。
どうしたのだろう。突然、会話の隙間に流れる空気の質が変わった気がする。
美紅が三柴に告げたことに嘘はない。侑は本当に美紅の交遊関係に興味を示さなかった。
美紅がいつ誰と会っていようが気にならないようだし、その友達が男かどうかなども心配されたためしがない。
その分、自分の事も自由にさせて欲しい。侑にはそういう気配が漂っていて、美紅と会っていない時の彼の予定をあまり明かしたがらない。
最初は戸惑ったし、淋しいとも感じた。
だが、慣れてしまえばこういうものかと受け入れられるようになった。
嫌な顔をされてまで、根掘り葉掘り侑の動向を把握しようとは思わない。
ひょっとしたら過去に束縛の強い彼女と付き合ったことがあり、それがトラウマになっているのかもしれない。
それに侑がやましいことがあってそういう態度をとるわけではないことは信じられた。
この五年、そこに他の女の影がちらつくのを感じたことはない。侑はそういうところは真面目な男だ。
だが、三柴はそうは受け取らなかったらしい。
「曲者、どこに目、付けてんだろうな。」
怒りにも似た不快感。そんなものが三柴の口ぶりから漂っている気がして、美紅は言葉に詰まる。
何故、三柴くんが怒る?
でも、それはほんの一瞬のことで、三柴はいつもの緩い口調に戻った。
「じゃあ、俺は気兼ねなく高梨と会えるってことだ。」
なので、美紅も「うん、そういうこと。」と請け合った。
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