第一章 2

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待ち合わせは、三柴が研修を行っている会場の最寄駅にした。 「わざわざ俺がいる駅まで来てもらうのは申し訳ない。」 そう、三柴は恐縮してみせたが、美紅が勤める図書館からもさほど遠くはないし、その日は勤務が一七時までの早番で、時間にもかなり余裕がある。 だから「大丈夫だよ。」と、三柴の気遣いは必要ないと伝えた。 図書館は平日は二〇時まで開館しているので、遅番の日だとこうはいかない。 約束当日、美紅が待ち合わせの駅のホームに降り立つと、何と、すぐ目の前にスーツに身を包んだ三柴がいた。 美紅は一瞬、目を疑う。何故なら、彼がここに立っているはずがない。 三柴とは駅の改札口で待ち合わせをしているのだから、彼が電車に乗るためにホームまで来る必要はないのだ。 それでも、やはりあの男は三柴に間違いない。 三柴の周りには同世代の男たちが戯れるように話している輪がいくつか広がっていて、三柴も一人の男と楽しそうに話し込んでいる。どう見ても美紅には気付いていなかった。 美紅が近付き、「三柴くん?」と声をかけると、「おう!」とにこやかに応じてみせる。 「いや、おう!じゃないし。何でホームにいるの?」 まずは素朴な疑問をぶつけさせてもらう。 「研修終わってこいつらと話しながら歩いてきたら、いつもの習慣でホームまで来ちゃってさ。少ししたら改札まで戻ろうと思ってたとこ。」 何とも気の抜けた理由が三柴らしくて、美紅は笑ってしまう。 ふと視線を感じ、目を向けると一人の男と目が合った。三柴と同じくスーツ姿で、その初々しさがどこから見ても「新社会人です」と主張している。 美紅は慌てて小さく頭を下げた。 「ああ、こいつ、同期の清宮。」 三柴が「こいつ」と言って紹介してくれた彼は、三柴よりも少し背が高く、色白のきれいな肌をしていた。目鼻立ちがくっきりとした整った顔の造りで、黒目がちの瞳と凛々しい眉が印象的だ。 「こんばんは。研修、お疲れ様です。」 美紅が笑みを浮かべて挨拶をしたのに、清宮は反応が薄い。ただ、ひたすらに美紅を見つめている。 それはどこかぼーっとしていて、美紅はちょっと心配になった。 私の声、聞こえてないのかな?
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