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第二章
開館前の準備を一通り終え、美紅は貸出カウンターに向かう途中で足を止めた。
夏休みの宿題と言えば、読書感想文。その課題が頭を悩ませる宿題の上位に君臨しているのは、美紅が小学生だった頃と何ら変わらないらしい。
そんな小学生や中学生に手を差し伸べるべく設けられた一画には、司書たちがお勧めする本たちが並べられ、あらすじを紹介するポップが展示されている。
美紅は幼い頃から本が好きで、図書館にも意欲的に通うような小学生だったから、読書感想文に苦労したことはない。
だから読書感想文に苦しめられている小学生や中学生に共感することは難しいが、それでも出来る限り彼らの気持ちに寄り添ってこのコーナーを設置した。
美紅が中心となって設けたこのコーナーは、悩める彼らの役に立つことはできただろうか。
「このコーナーも、もうすぐ店じまいね。」
背後から声がして美紅が振り返ると、先輩司書の中野が立っていた。
眼鏡の奥で笑う目が優しい彼女は、美紅よりも七歳ほど上の穏やかな空気をまとう女性だ。
「そうですね。もう、夏休みも終わりますから。」
早いものだ。
このコーナーを設置するに当たって色々と打ち合わせを始めたのが六月下旬。
その後、準備を重ねて学生の夏休みの開始時期と同じくしてコーナーを設置し、あっという間に一ヶ月半が過ぎようとしている。
「学生の頃は当たり前のように一ヶ月以上も夏休みを満喫してたけど、それは当たり前じゃないって教えてやりたいよねぇ。」
中野がしみじみとぼやくから、美紅は小さく笑ってしまった。笑いながら「ほんとですね。」と相槌を打つ。
「社会人になると、夏なんて働いているうちにあっという間に終わるんだから。」
さらにぼやいてみせた中野は、「どう?高梨さんは夏らしいことした?」と美紅に聞いてくる。
このセリフは、数日前にも聞いた。
「夏らしいこと何もしてないのに、夏が終わる!」
そう、電話の向こうで三柴が叫んだ。
社会人になって初めての夏を三柴は車に囲まれ、営業ノルマに追われて過ごしているらしい。
たまに電話をかけてきて、愚痴なのか笑い話なのかわからないような話を美紅にしてくる。どうやらそれでストレスを発散しているようだった。
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