第二章 

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美紅の眉間に寄ったシワなど、もちろん電話の向こうにいる三柴には見えるはずもなく、彼はさくさくと日程調整に入った。 ここまで来ると、もう、この流れを止める術はない。美紅はあきらめておとなしく手帳を開いた。 三柴の店舗の定休日と美紅の休日がちょうどよく重なっている日があり、すんなりと日時が決まる。 別に、浴衣を着ていかなくてもいいわけだし、浜焼きというのはちょっと惹かれる。 そんな軽い気持ちで承諾した「夏の思い出飲み会」が明後日に迫っていた。 なので、中野にもその通りに打ち明ける。 「高校の同級生と浜焼きを食べに行くくらいです。何か、海の家っぽいし、夏の思い出には完璧!とか押し切られて。」 「いいじゃない、浜焼き!」 思いのほか、中野は心の底から羨ましそうな顔をしてみせる。彼女のその反応に、美紅は小さく笑い、心が踊るような感覚が押し寄せた。 何だかんだ言って楽しみにしているらしい。 その夜、三柴からメールが届いた。 【諸事情により、一名追加になった。清宮も参加ってことで。いいかな?】 清宮…? ふと首を傾げた美紅は、すぐに一人の男の整った顔を思い出した。 四月、研修帰りの三柴と約束をしていたあの日。駅のホームで会った、滑らかな肌をした黒目がちの瞳と凛々しい眉の男。 清宮が誰のことかはわかったが、何故、彼が参加することになったのかはわからない。あれから美紅は一度も清宮に会っていないのだ。 それでも何度かその名前を三柴の口から聞いたことはあった。 配属先が決定した際、「清宮が近隣の店舗に配属された」とか言っていたし、「昨日は清宮と飯を食ってきた」とか報告を受けたこともある。 どうやら、三柴と清宮はそこそこ仲がいいらしい。馬が合う同期といったところだろうか。 【それはいいけど…どうしたの、突然。】 【清宮が一緒に連れて行けってうるさい。】 辟易している三柴の顔が容易に想像できて、美紅は携帯電話に綴られる文字を見ながらぷっと吹き出しそうになった。なので【了解!】とシンプルに承諾してみせた。 清宮くんも、夏らしいこと、しそびれちゃったのかな… そんな風に、さして気にも留めずにいると再度、三柴からのメールを受信する。 【浴衣!絶対、浴衣!わかってるよな?浴衣だぞ!】
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