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「時間だし、そろそろ始めまーす!」
幹事の彼が陽気な声で同窓会の開始を告げる。
簡単な挨拶と乾杯の後は、もうそこかしこで会話の渦ができた。
乾杯の際、美紅は個室全体をざっと見渡した。掘りごたつ式の席に沿う横長のテーブル、ずらりと並ぶ懐かしい面々。
その中に三柴の顔は見つけられなかった。
三柴くん…来ないのか…
やっぱり、二浪して、自分だけがまだ学生だということを気にしているのかもしれない。
しかも三柴が通う大学は、ここにいる誰もが「二浪してあそこか…」と心の中でつぶやくであろう大学だ。
悲しいことに、進学校を出た者はそういう考え方が染みついてしまっている。
そんな居心地の悪い思いを覚悟してまで同窓会に来る気にはなれなかったのかと、美紅は勝手に三柴の欠席に理由をつけた。
残念に思う気持ちにそっと蓋をして、美紅は再会できた目の前の同級生たちと盛り上がった。
まさに宴もたけなわ、あちらこちらで座席移動も始まって、ちょうど空いていた美紅の隣に誰かがすとんと腰を下ろす。
突然の人の気配に顔を向ければ、目の前に淡い琥珀色の液体が半分くらい満たされているグラスが突き出された。
「乾杯。」
「っ!三柴くんっ!」
状況が飲み込めないまま、条件反射のように美紅もグレープフルーツサワーが入るグラスを差し出した。
合わさったグラスがコンとかわいい音をたてる。
「高梨が酒、飲んでるよ…」
「そりゃ、飲むでしょ!」
「あの清純な高梨が…」
「汚れたみたいに言わないでくれる?」
いや、こんな中身のない緩いやり取りをしている場合ではない。
六年ぶりの再会なのだ。
三柴くんだ…
間違いなく三柴本人が美紅の隣でお酒を飲んでいる。
美紅の記憶の中にいる彼よりも少し大人びて、物憂げな空気をまとった落ち着きを醸し出しているが、紛れもなく三柴だ。
「いつ、来たの?」
「最初からいたけど?」
「えっ?ほんとに?」
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