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「美紅ちゃんはさ…どうして図書館司書になったの?」
隣でむくれている三柴になど構うことなく、清宮は美紅に質問を投げかける。
「単純に本が好きで。小学生の頃から地元の図書館にもよく通い詰めててね。タダで好きな本が読めるなんて夢のような場所だな~って、いつも図書館に感謝してた。」
「その恩返し?」
「そんなとこかな。」
恩返し。そんな殊勝な動機ではないかもしれないが、いつからか図書館で働きたいと考えるようになっていた。
そんな幼い頃からの目標が叶ったのだから、ありがたいことに違いない。
「高梨は高校のときも、いつも本を読んでたもんな~。」
三柴がしみじみと言う。
「高梨が面白いって教えてくれた本、全部、面白かったし。」
「意外だった。三柴くん、私が紹介した本、ちゃんと読むんだもん。」
「俺だって、本くらい読めます。」
高校生の頃、三柴は美紅が読んでいる本にいつも興味を示した。
教室で読むこともたまにあったが、通学途中の電車の中で読むことの方が多く、三柴の前で本を広げたことはあまりない。それでも三柴は事あるごとに「今は何、読んでるの?」と美紅に聞いてきた。
三柴に言わせると、美紅が述べる本の感想やあらすじが面白いらしい。
「俺も美紅ちゃんが勧めてくれた本、読んでみたい。何か、いい本あったら教えて。」
清宮に請われ、美紅はちょっと戸惑う。
清宮のことは、まだよくわからない。向かい合って小一時間程度話しただけの相手に本を勧めるのは、正直なところハードルが高かった。
相手がどのようなジャンルの本を好む人なのか、判断材料が少なすぎる。
「うーん…どんな感じの本が読みたい?」
「…泣くくらい美紅ちゃんが心を揺さぶられた本。」
少し考えた後、清宮が口にした要望に美紅は虚を突かれた。
まさか、清宮自身の好みではなく、美紅の心に的を当てて読んでみたい本をリクエストしてくるとは思ってもみなかったのだ。
まるで、あなたのことをもっと知りたい。そう言われた気がした。
美紅の胸がとくんと鳴る。
「心、を…揺さぶれた本…」
今、確かに心が揺れた。
そんな事実から逃れるように、美紅は必至で考えを巡らせる。
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