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そんな、馬鹿な。
美紅は目をしばたたかせる。
ちゃんと確認したはずなのに、乾杯の時、美紅の目に三柴の姿は映らなかった。
「薄情だよな〜。俺はすぐに高梨に気付いたのにさ。」
「えっ…ごめん…」
思わず素直に謝った美紅を三柴が笑う。
「でも、ちゃんと探したよ?何で気付かなかったんだろう?」
「俺、テーブルの端から二番目にいたからじゃん?」
美紅から一直線上の端。言われてみれば、そこは美紅の座る場所からは死角と言えなくもない。
かなり身を乗り出せばかろうじて見える、そんな席に三柴は座っていたらしい。
「しかも、高梨の後ろを通ってあそこまで行ったんだけどな~。」
「うそ!全然気付かなかったよ!声、かけてくれればよかったのに。」
「盛り上がってたからさ。俺、開始時刻すれすれで来たし。」
「そうだったんだ…」
何だか、いまだに信じられない。
それは六年ぶりに会えたことに対してなのか、六年も会っていなかったことに対してなのか、よくわからなかった。
「俺を探したってことは、高梨は俺に会いたかったってことだね。」
三柴は満足そうにグラスを傾ける。
その通りだ。その通りなのだけど、ここで素直に「うん。」と頷くのはちょっと悔しい。
美紅は謎の対抗心が芽生え、「なに、その自信過剰な言い草。」と鼻で笑ってみせた。
「俺は、高梨に会いたかったけど?」
「えっ…」
予想外の切り返しをくらい、美紅が言葉を詰まらせたとき、「あ~!三柴じゃーん!」というテンション高めの声が飛んだ。
美紅と三柴は、あっという間にさっきまで一緒に盛り上がっていた女子たちに包囲される。
「なに、飲んでるの~?」「ハイボール。」「なんか、渋い~。」という意味不明の感心を示されて、三柴も楽しそうに笑っている。
開始から一時間以上も経過していれば、酔っぱらいの集まりと化していて、些細なことが楽しく思えるのは仕方ない。
そこからは新たな会話の渦に巻き込まれる形で話に花が咲いた。
美紅は少しホッとしていた。三柴が自分だけがまだ大学生であることを卑屈に思ったり、この場に居心地の悪さを感じたりしている気配は微塵もない。
完全に美紅の取り越し苦労だったようだ。
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