第一章 1

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そういえば、三柴はそこそこ人気があったな、とアルコールのおかげで今や高校生に戻ってしまったかのような女子たちに囲まれている三柴を見ながら、美紅はその様子を微笑ましく見守る。 ちょっとやる気のなさそうな気怠い雰囲気、遅刻・喫煙・飲酒といった進学校に逆らっているような振る舞い、軽快なトーク、イケメンと言えなくもない顔立ち。 確かにあの頃の三柴には、もてる要素がちりばめられていた。 「えーっ、三柴、まだ大学生?」 「おうよ。気楽な学生生活満喫中で悪いね。」 「でも、もうすぐ卒業じゃん?就職は?」 「四月から車売るから。買って?」 「玉の輿に乗ったら買ってあげる。」 「それ、いつになる予定?」 「良さげな大富豪がいたら紹介してよ。」 「そんな大富豪と知り合えたら、紹介する前にさっさと車売りつけるって。その方が早い。」 目の前で繰り広げられる調子のいいやり取りを聞きながら、美紅はくすくすと笑う。 どうやら三柴はディーラーへの就職が決まっているらしい。ということは、二ヶ月後には車を売る営業マンとして頑張っているということか。 「そういえば、三柴くん、車が好きだって言ってたもんね。」 「よく覚えてんな、高梨。」 三柴が感心したような顔を美紅に向ける。美紅は「まあね。」と自慢げに返した。 高校時代、教室で車の雑誌を読んでいた三柴の姿が思い出される。 美紅にはよくわからない車種を口にして、その魅力を熱く語ってくれたこともある。 「じゃあ、三柴の就職を祝して!かんぱーい!」 派手にグラスを合わせ、皆で一足遅れた三柴の就職を祝った。 ここで得られた三柴の近況は、これくらいだった。 次々と同級生が入れ替わり立ち代わり美紅と三柴を取り囲み、絶えず笑いが起きていた。 その中で美紅も司書として図書館で働いていると明かしたので、三柴にも美紅の職業くらいは伝わったが、二人でゆっくり話す時間には恵まれなかった。 もちろん、皆で昔話も交えて楽しく盛り上がれたのだから、文句などない。 それでも同窓会が終了する頃には少しだけ物足りなさを感じる自分がいたことも否めなかった。 同窓会と聞いて、クラスの中の誰よりも再会を望むほど三柴と意気投合したきっかけは、何だったか… 二次会へと向かう集団に混ざって歩きながら、美紅は思い巡らせる。
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