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知らなかった。三柴くんに彼女がいたなんて。
そんなそぶり、見せたことあったっけ?
教えてくれてもいいじゃん。
三柴への抗議を胸に、美紅は電車に揺られて家に帰った。
翌日、その抗議をそのまま三柴にぶつけさせてもらう。
すると三柴が困ったような目をしてみせた。
「彼女じゃないよ。」
「え?そうなの?でも、そんな雰囲気出てたよ?」
「あ~…俺が口説いてるのはほんと。」
こんな切なそうな目をする三柴を初めて見た。
美紅は一瞬、言葉に詰まる。
「でも、あの感じなら、かなり脈ありってことじゃない?」
「それは、ない。だってあいつ、他の男と付き合ってるし。」
予想外の説明が飛び出して、美紅は今度こそ言葉を失った。
うそでしょ?
じゃあ、あの「いい雰囲気」は何?
彼氏がいる子が自分を口説いてくる男にあんな空気で応じちゃダメでしょ。
口には出さなかったが、美紅の顔にはありありと納得がいかないと書いてあったに違いない。
その日からだ。三柴の恋愛相談を受けるようになったのは。
相談といっても、三柴の独り言のような愚痴が大半で、美紅に何かしらの解決策を求めるようなものではなかった。
三柴の彼女への想いは本物で、それは嫌というほど伝わってくる。
軽そうに見える三柴がここまで真剣に一人の女を口説いているとは。しかも、一年以上も。
ただ、その一途な想いは彼女への不満と背中合わせで、たまに三柴のやるせなさと苛立ちが垣間見えた。
無理もない。
想いを寄せる彼女は他の男と付き合っているのだから。
それなら迷惑だと匂わせて相手にもしてくれなければ諦めもつくものを、放課後に二人で話したり、夜の電話に楽しそうに応じてくれたりもする。
美紅には彼女、深澤茉紘の考えていることが理解不能だった。
三柴から聞いた話によると、深澤茉紘とは二年生で同じクラスになり、そこから三柴の片想いが始まったらしい。
三柴が想いを告げた時には既に深澤茉紘は中学時代の先輩と付き合っていた。
それでも諦めきれなかった三柴は、「友達でいいから」という便利な言葉を駆使して深澤茉紘の周りをうろうろし続けている。
簡単にまとめると、そういうことだった。
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