3.依頼人

6/12
前へ
/75ページ
次へ
 今朝早くに会社から呼び出しがあった。内容は昨日の鈴本さんとのこと。人事部長から「これ以上会社に迷惑をかけるな」と言われ、自主退社を促されてしまったのだ。  最後まで先輩や同僚が人事部長を説得してくれていたけど、人事部長も上からの指示で覆せないらしい。こうして私の退職は決まってしまったのだ。 「それは……残念でしたね」 「ええ、まあ。せっかく仕事にも慣れてきたのにって。でも、自業自得でもあるので」  私がすぐ泣く癖をもっと早く治していれば、苦情も入らなかった。結局は自分で自分の首をしめてしまったのだ。 「僕は柴田さんに非はないと思いますが。……ですが、そうですね。僕としては柴田さんを勧誘しやすくなったのでありがたいといえばありがたいです」  向かいに座った田村さんの表情は相変わらず読めない。笑ったところを想像できない。 「こちらが『泣き屋』についての仕事内容と雇用契約書になります。試用期間は3か月。しかし、柴田さんが無理だと思ったらすぐに辞めていただいて構いません。お給料は試用期間にもお支払いしますので安心してください」 「ありがとうございます」
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加