3.依頼人

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 田村さんがデスクに座ると、スクリーンの右下の小さな枠に田村さんが現れた。田村さんに合わせるように女性が頭を下げ、田村さんはパソコン越しに私に説明する。 「彼女が今回の依頼人の神田千代さんです」 「え、もう通話始まってるんですか!」 「ええ。葬儀まで時間がありませんからね。神田さん、先日お話した通り今回は僕だけではなく柴田も同行させていただきます。……柴田さん、こちらに来てもらえますか」  いきなり始まった通話についていけない。私は言われるがまま依頼人と紹介された神田さんと挨拶を交わし、もとの椅子に戻った。  そこからは葬儀の日程や場所、参列者の簡単な情報を交えての話し合いが始まった。田村さんは頷きながらパソコンになにやら打ち込んでいる。  私もなにかするべきかと聞けば「あなたの仕事は泣くことなので」と言われてしまい、私は2人の会話を黙って聞いていた。ただ話を聞いているだけだと葬儀の打ち合わせと変わらない。  式がどういう流れになるのかや、どのタイミングで泣いて欲しいかなどの話し合いは順調に続いていく。ほとんど話がまとまったというところで田村さんが切り出した。
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