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「では、今回僕たちにご要望などはありますか」
『要望……ですか』
「主に泣く場面を見せたい相手や、親族の方と話すことがある時にどんな話をして欲しいか、などが該当します」
ふと、初めて田村さんと出会った時を思い出す。確かあの時は田村さんの隣にいたおじさんに声を掛けられていた。
たぶん、あの人が依頼人から田村さんへ要望のあった人であり、泣く為の内容だったのだろう。あまりにも綺麗な話で覚えている。まさかあれが作り話なんて思いもしなかった。田村さんはこうして依頼人と相談しながら泣く話を考えているのだろう。
『……何人でもいいんですか』
「はい。複数人を希望しますか」
『それなら、親族全員でお願いしたいです』
それまで視線を彷徨わせていたのが嘘のように、神田さんはまっすぐな視線を田村さんに向けた。まさかの全員。田村さんを盗み見ると、驚いた様子はなくただ頷いただけだった。
「わかりました。今回の葬儀はお母様とのことでしたが、両家の親族の方がいらっしゃるのでしょうか」
『いえ……来るのは母方の親族のみです。父は数年前に亡くなり、その時に父方の親族とは縁を切りました。ですがその……』
と言い淀む神田さん。田村さんは急かさず、表情の読めない瞳を画面に向けている。
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