3.依頼人

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 なるほど。私には『泣き屋』を利用する理由がピンとこなかったんだけど、こういう使い方もあるのか。  私が担当をしていた式はほとんど親族以外の参列者も多くいた。泣いている人は親族の人が多いように見えたし、昨日の鈴本さんの時も同じだった。だけど、神田さんの式はその親族の人達が故人をよく思っていないみたい。  私が同じ立場でも、お母さんを見送る式で、お母さんが馬鹿にされるようなことは絶対にしたくない。 「わかりました。では、今回の相手は神田さんの親族全員とのことで、段取りを組ませていただきます」 『よろしくお願いします』 「神田さんがお話できる範囲でお母様との思い出をお聞きしてもよろしいですか」 『え?』 「『泣き屋』の仕事に必要なことです。泣いて悲しむ為に様々な手段を持ち得ますが、今回はあなたのお母様とのエピソードを効果的に出していく方がいいと判断しました」  悲しむことが仕事。やっぱり私にはいまいちピンとこなかった。神田さんも同じようで困惑した表情を浮かべている。迷うように視線を彷徨わせ、小さく頷いた。 『わかりました。必要なことなら――』  そうして神田さんが話してくれた思い出に、私はテーブルの上にあったティッシュを半分近く消費することになるのだった。
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