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「どうかしました?」
「いえ、なにも」
今さら怖気づいたなんて言えなくて私はまた笑顔を作る。
そこでふと、田村さんは泣き屋なのに泣けないのが悩みだと言っていたことを思い出した。
田村さんと初めて会った時、確かに目尻に浮かぶ涙を見た。田村さんの言っていることが本当だとしたら、あの涙はなんだったのだろう。
私は周囲を見回して喪服の人がいないのを確認してから田村さんにそっと訊いてみた。
「あの、田村さんは以前『泣けない』って言っていましたよね? 今までどうやって泣いていたんですか」
「ああ……これで解決しています」
田村さんがポケットから出した物を見て私は自分の目を疑った。指でつまめる透明な容器に入ったそれは、コンビニでも買える優れもの。私もポーチに常備している。
だけど……え、本当にこれで?
私の訝しむ視線に気づいているのかいないのか。田村さんはポケットにそれを戻すと躊躇することなく言い放つ。
「僕、誰にも気づかれずに目薬さすの得意なんです。おかげで一度も泣いてないとバレたことはありません」
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