4.大切な人

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「あの、そのシナリオを披露するのは火葬中にお願いしたいです。待合室での時間の方が親戚の耳にも入りやすいかなと。あと、その……私のそばにいて欲しいんです」  急に声を小さくした神田さんを私は思わず見てしまった。伏せた表情からはなにを考えているのかわからない。  想像することしかできないけれど、1人で待合室にいる時間が耐えられないのかなと思った。  話を聞く限り、神田さんのこともお母様のことも、親族の人達はよく思っていない。そんななか、神田さんはたった1人。心細く思っていてもおかしくない。 「それは構いませんが、親族でもない人間がそばにいたらかえって怪しまれるのでは? 今回は神田さんの友人ではなく、お母様の会社の同僚という体裁でいるのですから。それにあまり親族の方達の近くにいて私達の正体がバレてしまえば、神田さんの立場を悪くしてしまうかもしれません。海外でこそ泣き屋の存在は珍しくないですが、日本では知らない人がほとんどです」 「それは……そうなんですけど」
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