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田村さんの言うことは最もだ。火葬中の待合室は参列者がそろう場所。お母様の職場の人間としているのは問題なくても、喪主である神田さんのそばでは距離が近すぎる気もする。
数々のお葬式を見てきたけれど、食事を運んだ時に見えた室内は静かなところが多い。たまに子供がいるとゲームをしたり、走り回ったりしているけれど、基本的には静かだ。シナリオを披露するだけでも目立つだろうし、難しいところ。それは神田さん自身もわかっているようで歯切れの悪い返事をする。
「なにかあるんですか」
「あの……」
「千代ちゃん久しぶりねぇ」
神田さんの顔がわかりやすく強張った。神田さんの後ろから1人の中年女性が歩いてくる。
化粧は濃く、黒のアイラインは跳ね上がり、きつめの印象だ。正直、お葬式に出るメイクじゃないな、と思ってしまう。お葬式に参列するなら、もっとメイクは控え目にするのがマナーだ。
おまけに神田さんの目の前に立った女性からは香水の匂いがツンとした。有名な香水でも香りが強すぎれば身だしなみには程遠い。
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