4.大切な人

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「おばさん……ご無沙汰しております」  神田さんはすぐに笑顔を作っておばさんに頭を下げた。おばさんは神田さんを頭の上からつま先まで無遠慮に見て鼻で笑う。 「やだわぁ、他人行儀じゃない。血が繋がっていないとはいえ、私達は親族でしょう。一応」 「そ、うですよね。すみません」 「あら、こちらの人達は?」  おばさんがちらりと私達を見る。いや、これは田村さんしか見てないな。目の色が違うし。おばさんの頬に赤みが増したのは気のせいだと思いたい。  おばさんは眼鏡のイケメンこと田村さんを前に、神田さんへの態度が嘘のように、それは綺麗な笑顔を浮かべた。 「この度はご愁傷様でした。私は香奈さんの会社の同僚の田村といいます。こちらは柴田です」 「こ、この度はご愁傷様でした」  田村さんの挨拶に倣って私も頭を下げる。田村さんも少しくらい合図してくれたらいいのにいつも急だもんなぁ。と内心ため息をついた。 「恐れ入ります。……まぁ。香奈にこんなかっこいい同僚がいたなんて知りませんでしたわ。わたくし、香奈の姉の早苗といいます。あの子も会社の人が駆けつけてくれたと思えば嬉しいでしょう」 「いえ……」  田村さんを見つめるおばさん……もとい早苗さんは、うっとり、という表情がピッタリな顔をしている。  気まずそうにしているのは神田さんだ。早くこの場から逃げたそうに見える。
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