4.大切な人

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 俯いてしまった神田さんにかける言葉が見当たらない。  早苗さんの立場から考えると、急に現れた血の繋がらない姪っ子。家族の一員と思えなかったのだろう。  でもだからといってあんな風に神田さんに当たらなくてもいいと思う。 「父は私のことを可愛がってくれましたけど、母から優しい言葉をかけられた思い出はないんです」 「お母さまとの仲はよくなかったんですか?」 「……はい。父が存命の時は、父を真ん中にして会話をしたり、ご飯や遊びに出かけたりしていました。子供心に母にあまりよく思われていないと察していたんでしょうね。私も、母に話かけようとしなかった。父が亡くなってからは私も社会人で1人暮らしを始めていたこともあり、実家で母に会うことも少なくなっていって……。それで……」  続く言葉を神田さんは飲み込んだ。あとは、依頼で聞いた通り。  神田さんのお母様は病気で倒れて亡くなった。久しぶりの再会は生きて会うことは叶わなかったと――。 「あの、1つ聞いてもいいですか」 「ええ……」  私はずっと訊こうか迷っていたことがある。本人に訊いていいものか悩んだけど、神田さんの話を聞いているとどうしても気になってしまった。
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