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「どうしてお母様の為に『泣き屋』を使おうと思ったんですか」
「それは……母の親戚に、母を想っている人がいることを見せたかったからです」
「それだけじゃないですよね?」
いくら親戚がお葬式をやるように言ってきたからとはいえ、断ろうと思えば断ることもできたはずだ。
元々、お互いがよく思っていないのなら尚更そう思う。
だけど、神田さんは苦手な親戚の人達と顔を合わせることを選んだ。どうしてなのだろう。
「私は――」
「神田さん、そろそろ移動しないと、時間に遅れてしまいますよ」
田村さんがタイミングよく遮る。いや、これはわざとかもしれない。
田村さんがなにを考えているのかわからない視線を私に向ける。これ以上の詮索は不要、ということだろうか。私は小さく頷いた。
「すみません。止めてしまって。私たちはあとから向かいますので、先に行っててください」
「わかりました。では、後ほど……」
頭を下げて去っていく神田さんを、田村さんと2人、並んで見送る。
さて、田村さんの真意はなんだろう。
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