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「……ところで柴田さん」
「はい、なんでしょう」
「僕の眼鏡知りませんか。先ほどまであったのですが、急に失くなってしまい……。僕は眼鏡がないと、あなたの顔もぼやけているんです」
そう言った田村さんの顔が目と鼻先に寄せられた。心臓に悪い。本当にちょっと待って欲しい。
「近いですって!」
手で田村さんをやんわり押して距離を取る。首を傾げる田村さん。
というか、この人マジか。という気持ちが勝る。
だって、眼鏡は――
「失くしたもなにも、ずっと田村さんの頭の上にありますよ?」
「あ、本当だ。すみません、ありがとうございます」
無表情で眼鏡を元に戻す田村さんに、私は入っていた力が全て抜けていたのだった。これで本当に本番を迎えられるのか。
少しだけ、不安になった。
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