4.大切な人

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「……ところで柴田さん」 「はい、なんでしょう」 「僕の眼鏡知りませんか。先ほどまであったのですが、急に失くなってしまい……。僕は眼鏡がないと、あなたの顔もぼやけているんです」  そう言った田村さんの顔が目と鼻先に寄せられた。心臓に悪い。本当にちょっと待って欲しい。 「近いですって!」  手で田村さんをやんわり押して距離を取る。首を傾げる田村さん。  というか、この人マジか。という気持ちが勝る。  だって、眼鏡は―― 「失くしたもなにも、ずっと田村さんの頭の上にありますよ?」 「あ、本当だ。すみません、ありがとうございます」  無表情で眼鏡を元に戻す田村さんに、私は入っていた力が全て抜けていたのだった。これで本当に本番を迎えられるのか。  少しだけ、不安になった。
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