5.家族

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「これって……!」  神田さんの声が待合室に響く。早苗さんが顔をしかめてこちらを見てくるけど、神田さんの視界には入っていないようだ。 「どうしたの?」  意地の悪い笑顔をした早苗さんが私達に近づいてくる。旦那さんが止めるも、早苗さんはまっすぐにこちらにくる。  娘さんもハラハラとした顔でゲームに夢中な娘と早苗さんを交互に見てから、旦那さんに続いて私達の元へ歩いてきた。 「ねぇ、千代ちゃん。いい歳した大人がスマホを見て声を荒げるなんて、ちょっと常識がないんじゃない?」 「ちょっとお母さん、やめなよ」 「いいのよ。こうやって指摘するのも叔母として当然ですし」  娘さんが早苗さんを止めようとしても、聞く耳をもたない。旦那さんも止めようとしているみたいだけど、相手にされていなかった。 「田村さん、どうするんですか」 「仕事を続行します」  小声で田村さんに言うと、田村さんは堂々と言い放つ。さりげなくスーツのポケットに手を入れたのを私は見逃さなかった。  あ、この人本当にこれから泣く気だ。
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