5.家族

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「早苗さん、香奈さんは私にも柴田にも、仕事を丁寧に教えてくれました。わからないところがあればさりげなく教えてくれた。本当に心の優しい人でした」 「ええ……本当は、私も心のどこかでわかっていたんでしょうね。あの子は優しい子だと。私がなにを言っても表情一つ変えないのが面白くなくて、姉として人として最低な態度をとってしまった。もっと、もっとちゃんと香奈と向き合えばよかったのに……」 「……亡くなってしまった人とはもう会うことはできません。ですが、早苗さんが心からそう思うなら、香奈さんのことを想い続けてみるのはいかかでしょうか」 「想い……続ける?」 「はい。死者のことを忘れないでいることが、何よりの供養であると、私は思います。そして、香奈さんが残した家族を……千代さんと向き合うことも、一つの道ではないでしょうか。生前の香奈さんは最後まで、残してしまう千代さんのことを心配していましたから」  田村さんの目尻から流れる涙があまりにも綺麗で、私まで田村さんから目が離せない。  その場の空気を一気に田村さんが掴んだ。
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