5.家族

16/23
前へ
/75ページ
次へ
「そう……かもしれませんね。……千代ちゃん、今までひどいことを言ってごめんなさい。いきなり態度を変えたところで、あなたはよく思わないかもしれないけれど、少しでもいい。困ったことがあったらなんでも私に話して欲しい」 「おばさん……」 「あなたは一人じゃない。私も……ここにいる私の家族もきっと力になれると思うから」  早苗さんの旦那さんも娘さんも目を潤ませて頷いていた。千代さんは真っ赤な目をこすって、頭を下げた。 「ありがとう、ございます……」  こうして、私の初めての仕事は幕を閉じた。 ※ 「僕のハンカチ、よかったら使ってください」 「ありがとうございます。……って、早苗さんにも貸していたのにハンカチ何枚持っているんですか」 「仕事の時は常に五枚は持ち歩いています。まあ、僕が使うのはお手洗い以外用途はないのですが」  納骨式も無事に終わり、千代さん達は再びお寺へと戻ることになった。私達の仕事は火葬場まで。だからここで千代さんとはお別れだ。  少し離れた場所では、斎場が用意したバスに乗り込む早苗さん達の姿がある。腫れた瞼のまま、ぎこちない笑顔で千代さんと会話をしていた。すぐには無理だとしても、二人の関係が良い物になればいいなと願ってしまう。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加