過労死、そして……

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過労死、そして……

僕は獣医の西田浩司、幼い頃より動物が好きで、動物にどういうわけか好かれており、父が獣医をしていた事もあり、僕も獣医の道を志し、クリニックを開いている。 「はい、これでもう大丈夫ですよ」 「ありがとうございます、先生、ほらちゃんと先生にお礼を言いなさい」 「ありがとう先生、ミーちゃん死んじゃうんじゃないかと思って心配だったよ」 「ミーちゃんも人間でいったら君のおじいちゃんやおばあちゃんくらいの年だろうし、無理させ過ぎない方がいいよ」  医学の進歩は人間だけでなく動物の寿命も伸ばし、こうやって高齢化した動物の治療や時には看取る事も珍しくはない。 「そっか、ミーちゃん、おばあちゃんなんだね」 「でも大事に接してあげればまだまだ元気に過ごせるからね」 「うん、私大事にするね」 「それじゃあ、先生これで失礼します」  患者の動物、そしてその飼い主はクリニックをあとにし、看護師の南野さんが声をかけてくる。 「お疲れ様です、先生、午前の患者さんはあのネコちゃんで終わりですし、少しお休みになられては」 「いや、昼食を摂ったら、高田さんの家に往診に行かないとあそこはおばあさんが1人暮らしで飼っている犬をうちまで連れてくるのが大変だからね」 「でも先生最近休憩時間をよく往診の時間にあてられてるうえ、時間外でも診察していますよね、体壊しちゃいますよ」 「ははは、今日は往診は1件だけだし、終わったら午後の診療まではゆっくりと休むさ」  そう言いながら、僕は昼食を食べ終えるとすぐに高田さんの家へと向かった。高田さんのおばあさんには少し遠いが、僕ならすぐに往復できる距離だ。  南野さんの言うように僕は往診や時間外診察を多くしている。獣医というのはその特殊性ゆえに専門病院や診療所を開いて働く事が多いうえ  獣医そのものを志す者も少なくなっている。  なかなか病院が見つからず、僕のクリニックに来るという事がほとんどだ。確かにこの頃疲れは溜まっているが、飼い主さんに不本意な形でお別れして欲しくないという思いから多少の無理は承知でしている。だけど……。 「う……はあ、はあ……」  突然胸がとても苦しくなった、何でこんな時に、まずい意識ももうろうしてきたぞ。 「だ、大丈夫ですか?今救急車を呼びますね!」  女性の声が聞こえたが、返事をする間もなく僕はその場に倒れこんだ。 「え⁉あ、ああああ……」  これが死というやつか、医者の不養生とはまさにこのことだな。  死ねばどうなるのか?そんな事を考える間もなく、僕には……。
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