本章

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明紀(めいき)九年 平和条約の発効 奏国及び清国、両王の同意の元、九月十日、平和条約が締結(ていけつ)したことをここに公表する。条約の証として清国から獣皮、鉱石の贈呈。奏国からは清蓮(せいれん)公主を送ることとする』  市中に建てられた看板の前で、その号外を知った人々が見せたのは歓喜ではなく、悲哀だった。 「なんてことなの……」  商人の女はふくよかな体を震わせ、顔を覆い、 「清国へ嫁ぐなど正気の沙汰とは思えぬ」  その隣で老人がぼさぼさの髭を整えながら苦言をこぼし、 「公主さま、死んじゃうの?」  二人の話し声を聞いていた子供はぽろぽろと涙を流した。  号外によって引き起こされた喧騒はここだけには収まらず、瞬く間に奏国中に波紋を描くように広がった。
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