【愛娘のお引越し】

3/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
和式長のシックな部屋が(まい)ちゃんの部屋。 (まい)ちゃんに炬燵(こたつ)に入るようにと促された私と一如(かずなお)は、いそいそと炬燵(こたつ)に入る。 普段は入れさせてもらえない(まい)ちゃんの部屋は、他の部屋よりもシンプルでいてきちんと整えられている。 「よく聞いてね?私、引っ越すことにしたの」 (まい)ちゃんは意を決してそう告げた。 「へ?」 「は?」 私と一如(かずなお)は同時にキョトンとしていた。 なぜなら常日頃、(まい)ちゃんは、同居の方が楽だから一生、家族と暮らすと言っていたからだ。 「な……なんでまた急に?」 私は驚きながらそう(まい)ちゃんに訊いた。 「もう無理。耐えられないの。……この家、汚すぎて私のメンタルがやられちゃうから、だから……」 「そんな!!だったら他の部屋も(まい)ちゃんが掃除してインテリしたらいいじゃん?」 「無理。『他人』が触ったところは触れない。気持ち悪いの」 「他人って……」 私は衝撃的な(まい)ちゃんの発言にかなりショックを受けて、これ以上、何も言えなかった。 「気持ち悪い、ね?いいだろう。引っ越せば?」 一如(かずなお)はそう一言、言って(まい)ちゃんの部屋を出ていき、お風呂に入ってしまった。 残された私は目眩(めまい)がおきそうなのを我慢して、(まい)ちゃんの話を聞き続けた。 もう(すで)に引越し先は決まっていること。 ガス・電気が通ったら出ていくこと。 今まで使っていた自分の家財道具は新調するから全て、いらないこと。 (まい)ちゃんは無表情で淡々(たんたん)と私に語った。 (しば)しの沈黙が続いた。 私は(まい)ちゃんの顔って、こんな顔だったっけ?と現実逃避をしていた。 「1月の初めには出ていくから。お母さん?聞いてる?」 「う、うん……」 真っ直ぐで()んだ瞳の(まい)ちゃんに見つめられると、私は、自分が(けが)れている存在のように感じてしまい、(まい)ちゃんの視線から(のが)れるように座る場所を移動した。 その時、(ふすま)の向こうから、 「アタック、25〜〜〜〜♪♪」 と歌う、(たの)しげな翔太(しょうた)の歌声が聞こえた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!