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「あけましておめでとうございます」
「はい、おめでとう」
この日の元旦、私は訪問着を着てお義母さんの家に訪れた。
一如と翔太は普段着。
私はお義母さんに帰依な眼差しで私を見つめてくる。
その視線が私には空恐ろしいく、お義母さんから逃げるようにして一如の後ろに隠れた。
「おふくろ。なんで手を合わせてんだよ?」
一如は失笑し、ダイニングテーブルに腰を掛けた。私も慌てて一如の隣りの椅子に座った。翔太はお義母さんの家に来た時にするルーティンをしている。
そのルーティンとは、トイレの確認だ。
翔太はトイレが汚いとオシッコをしないという拘りを持っている。
「あら?舞ちゃんは?」
照れくさそうに、そう、お義母さんは私に訊いてきた。
「あ……まぁ……舞は多分……引越しの準備で忙しいのかと……」
私は俯きながら蚊の鳴くような声でそう伝えた。
「引越し?舞ちゃん、一人暮らしするの?いつ?」
「お正月休みが終わってからかと……」
「まぁ!!そうなんだ。いよいよ独立するのね」
「独立……ですか」
私は俯いていた顔を上げ、零れそうになっている涙を止める為に天井を見上げた。
「そうよ?舞ちゃんはもう、立派なレディーだもの。いずれは親から巣立つものよ?よかったわね?えみさん。おめでとう」
そっか。
私、やっと舞ちゃんを羽ばたかせるようになったんだ。
今まで何にこだわっていたんだろう、私は。
これは、めでたいことなんだ!!
私は瞼をギュッと閉じて、舞ちゃんの顔を思い浮かべていた。
そこには社会人として立派になった……凛とした女性が私を見つめていた。
『お母さん。今までありがとうございます。私は旅立ちます。本当にありがとう』
その女性は、そう私に言うとクルリと後ろを向き、長い道へとあゆみ始めた。
【了】
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