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「ちょっと一杯、やっちまおうかな」
抜けるような青空の下、薄いピンク色の花が咲き誇る大きな木の下で、タクヤはベルトのバッグから小さな容器を取り出した。
「あ、まさかそれ、アルコール……」
アンドレイはタクヤの行動に驚くが、タクヤは「しー! ナイショ、ナイショ」と、人差し指を自分の口に当て、おどけてみせた。
「〈お花見〉って知ってるか、アンドレイ」
「サクラなどの花を見ながら、飲食をすることでしょ」
「飲食っていうか、酒盛りだな」
「昔のニッポンの風習ですね。サクラという種類の樹木がニッポンに存在していたころの。たしかにこの木の花は、サクラにそっくりですね。……でも、ここでは飲んじゃダメですからね、タクヤ」
「大昔のアーカイブ映像で見たことあってな。まだ自然が残っていた時代のニッポンの映像。きれいな満開の桜の木が何本も並んでいて、その木の下でたくさんの人が、料理を食べたり、酒を飲んだりしているんだ。歌ったり、踊ったりしてる人もいて、みんな楽しそうに笑っていた。いい時代だよなあ……」
「大丈夫ですか、タクヤ。ちょっと変ですよ。今、調査中ですからね。わかってますよね」
タクヤは、左腕に付けている端末装置の数値を確認した。
「空気は大丈夫だってわかっているんだ」と、ヘルメットを外そうとし始めた。
「まだダメです、タクヤ!」
アンドレイが止めるのも聞かず、タクヤは気密スーツのヘルメットを外した。
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