4人が本棚に入れています
本棚に追加
ふたりは居酒屋の前で別れた。山田はコンビニに寄ってから帰ると言って、去っていった。
高橋は山田の背を見送ると、急に早歩きになった。顔は真っ青、体をがたがたと震わせ、ビルとビルの隙間を見つけると、そこに駆け込み、吐いた。
何度も嘔吐を繰り返し、吐く物が胃液しかなくなると、座り込んだ。懐から煙草を取り出し、震える手で火を点けた。
高橋は一本吸い終えたところで、目の焦点と思考できる意識が戻ってきた。彼は、由香子の事を思い出していた。自分の彼女だった女の事を。
ーーフラッシュバック
闇のなかでタイヤレンチが弧を描く。
由香子の頭にめり込んで、頭蓋骨を砕く音がする。
由香子は、身をよろけさせて、頭を押さえながら、尻もちをついて座り込んだ。
それでも彼女は走って逃げた。
森のなかに向かって逃げてゆく。真っ暗闇の森のなかに。
妙に逃げ足が速かった。
追いつくのに、ひと苦労した。
捕まえて、最後に一撃をくわえると、そのまま倒れ、動かなくなった。
そう、自分が殺した彼女のことをーー
最初のコメントを投稿しよう!