エイプリルフール

4/18
前へ
/18ページ
次へ
いま、部屋の前にいます(ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ)』と去年のエイプリルフールに、俺のスマホに由香子がメッセージを送ってきた。  俺は部屋の扉を押し開けた。ーーが、由香子の姿はなかった。俺は意味がわからず、ぼおっとしていると、開けた扉の後ろから、ひょこっと由香子が顔をのぞかせた。『ばあっ! びっくりした? エイプリルフール!』と彼女は笑顔で言った。  高橋は二本目の煙草に火を点けた。山田が話したエイプリルフールの話に、どういう偶然の一致なのか、『いま、部屋の前にいます(ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ)』と いう言葉をきいたときは、恐怖すら感じた。  高橋は辺りをうかがい、ビルの隙間から出た。さいわいスーツに汚物はついて無いようだった。口の中の酸いものは、自販機で買った茶で、人目のつかない場所でうがいし、吐いた。  もう一本、煙草に火を点ける。今度の煙でようやく落ち着く。高橋は当時のことを思い出す。  あの扉の裏から、由香子が笑顔で現れた時、俺は彼女のいたずらに怒っただろうか? いいや、俺は微笑みで応え、ふたりで笑いながら、彼女を部屋に迎え入れた。それからふたりで食事をし、お互いに今日の出来事などを話し、その後、愛しあった。 
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加