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……俺は、由香子の事が好きだった。高橋は夜道を歩きながら、回想する。
由香子とは、合コンで知り合った。参加者の女性陣たちと、話しているうちに、高橋はそのなかの、ひとりが気になった。
由香子だった。
何故だか、彼女の事が気になって仕方がない。その理由は、後にわかる事になるのだが、その時、俺は彼女に自分と同じにおいのようなものを感じとっていた。俺たちのような目に遭った者だけがわかる特有の態度、雰囲気のような事だ。
周りから抜け駆けだ、と冷やかされたが、俺は由香子を皆と離れた席に連れてゆくと、積極的に彼女と話した。彼女は最初戸惑っていたがーー彼女もわかったのかもしれない、俺がどういう人間なのかという事をーー俺の話をきいてくれた。
高橋は、母と離婚した身勝手な父親に児童養護施設に入れられ、そこで育ったと由香子に明かした。そして、父は行方をくらまし、母もどこでどうしてるのかわからない。自分は天涯孤独の身だ。とも彼女に話した。
由香子は、高橋の話をきいた後、自身のことを話した。高橋が彼女に感じた同じにおいが間違いでなかった事を証明してくれた。
由香子は幼い頃、両親を不慮の事故で亡くした、と言った。両親と手を繋いで道を歩いていたーー記憶は定かではないが家族で食事に行った帰りの事だったと思うと言っていたーーところ、建築現場の足場が崩れ、その下敷きになった。我が子の命だけは。と、両親が由香子に覆い被さり、当時、幼稚園児だった彼女は、一命をとりとめた。が、その幼い身で、天涯孤独の身となった。
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