エイプリルフール

6/18
前へ
/18ページ
次へ
 彼女は母の姉夫婦に引き取られ、すでにいた三人姉妹から、いじめられて育った、という。成人した時、家出するかのように、姉夫婦の家から出た、と言った。自分の両親が死んだ時、建設会社から多額の損害賠償金と慰謝料を、この姉夫婦がかすめ取っていた事も知っていたので、恩も義理も返す必要はないと。それで正解だったとも由香子は言った。それが証拠に、姉夫婦も、いまだ未婚の三姉妹も、由香子の事を、警察に捜索願いも届けなければ、また自ら探そうともしなかった。こんな連中とは、縁が切れてよかったのだ。  高橋も由香子も、人並みの社会人として生活ができるよう、苦労してなったのだ。  合コンが終わった後、高橋は由香子を誘った。そのまま"お持ち帰り"するような事ではない。彼女とは、きちんと付き合いたい、という気持ちでデートの申し込みをした。  由香子は最初、渋るような態度でいた。俺は彼女の気持ちが、わかるような気がした、俺たちのような人間は、なかなか人を信用することができない。俺も施設にいた頃は、いじめや暴力が影ながら横行し、大人の職員にだって用心しなければならなかった。何人かはそいつらの都合のいいオモチャにされていた。  高橋は真剣に熱意を込めて由香子に言った。 「僕とデートしていただけないでしょうか」  由香子は、うつむいて、小さかったが、嬉しそうな声で答えた。「ええ、よろこんで」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加