エイプリルフール

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 次の日曜日、俺たちは"エライトシマエン"という遊園地にいた。このデート場所は由香子の希望だった。彼女は遊園地で遊んだ事がなかったという。そういう俺も遊園地は初めてだった。ふたりして、まごつきながら、チケットカウンターで入場券を購入し、ゲートをくぐった。  高橋と由香子は童心に返って遊んだ。ありとあらゆる乗り物に乗って、彼らは、子供の頃遊べなかった分を、取り返すかのように、はしゃいでいた。ジェットコースターに、スイング・アラウンド。お化け屋敷に射的や、綿菓子……。 「高橋さんの夢はなに?」観覧車に乗った時、由香子が訊いてきた。「わたしはね……」  ちっちゃな家でもいいから、そこで幸せな家庭を持つのが夢だと彼女は言った。それに子供はふたりくらいいたらいいな、とも言った。俺も由香子とそんな家庭を築けたら、どんなにいいだろうかと思った。家に帰ると由香子と、ふたりの子供が出迎えてくれる。普通の生活というのがどれだけ幸せなのか。彼らは身に染みて知っていた。  だが、高橋には、自分をどん底に追いやってくれた両親への恨みが残っていた。それに貧乏な暮らしが長かったため、そんな理不尽な自分の人生をどうにかして、大逆転してやりたいという想いがあった。  高橋は由香子に、自分の夢はエベレストのような高い目標を、人生の頂上、勝ち組を目指すのが、野望だと言った。 「ぷっ」由香子が吹き出して笑った。「……野望だって」  高橋はコンビニ横の灰皿に煙草を捨てると、くすりと笑った。いま思い出すだけでも、恥ずかしいセリフだ。 「あっ、野望だなんて、言い方変だったね」 「うふふ。悪の組織の頭領(ボス)みたい」 「頭領って。由香子ちゃんのその言い方も変だよ」  由香子はほっぺたを膨らますと、怒った顔をした。高橋は彼女が機嫌をそこねたと思い、あたふたした。すると、由香子はそんな高橋を見て笑いだし、高橋もそれにつられて笑った。  ふたりして、お腹を抱えて笑った。こんなに笑ったのは、久しぶりだった。 「ありがとう」と由香子が言った。「わたし、由香子ちゃん(ヽヽヽヽヽヽ)なんて呼んでもらったの初めてなの」 「そうなの?」  由香子は、外の景色に目を向けた。観覧車はもう頂上に達しようとしていた。高橋は空の景色を背景にして、彼女の横顔を見つめていた。 「うわぁ、もうてっぺんね」由香子は言った。「わたしのこと……好き?」
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