4人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は由香子の隣に座った。彼女は俺の方に顔を向けた。
彼女の瞳を見つめ、俺たちは目と目で会話する。
彼女は目を閉じ、すこしだけ上を向く格好になった。
俺は由香子にキスをした。つかの間、触れただけだったが、彼女と俺は以心伝心していたと思う。
由香子がそっと目を開いた。
「ああ、好きだよ」と、俺は答えた。
「わたしも好き」由香子が抱きついてきた。「……大好き」
高橋は由香子を抱きしめ、ふたりは、一心に互いの唇をもとめあった。触れる度に、長く……、深く……。ふたりの乗ったゴンドラは、他のよりすこし大きく揺れてーー
ーーいた。高橋は自宅マンションの近くの公園にいた。ブランコに座り、ちいさく揺らしていた。誰もいない。街路灯の明かりだけ。錆びた鎖の擦れる音がする。
明日は、エリコが俺の部屋を訪れる。
高橋は足元に煙草を捨て、踏みにじった。この女の出現が、高橋由伸にくすぶっていた野望を再燃させ、由香子を殺す原因になった。ーー沢尻エリコ。伊神忠商事の社長の娘。
最初のコメントを投稿しよう!