0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「なぁ、俺たちカッコいいらしいぞ」
「ダサい田舎者だと思われてなくてホッとした。」
「でも、彼女は欲しくてもあんなガツガツされると怖いな」
「理想の女の子を見つけよう!」
カイが手のひらを下に向けて前に出すと、マイルズが甲に手のひらを重ねた。おー、と小さな声と共に手を下げる。
カイとマイルズは歩を進めるたびにカッコいい、と声をかけられた。嬉しい気持ちはあるけど積極的すぎる女性たちに参ってしまっていた。
「楽しくないね」
「デートやめたい」
笑顔でそんなことを言い合っているカップルを見かけて目を見張る。言っていることと表情が真逆だった。
積極的な女性たちからのアプローチに気を取られていたから気付かなかったが、表情と言葉がチグハグな人がいたるところにいた。なんとも不思議な光景だ。
「そんなこと言わないで楽しもうよ」
マイルズがカップルの仲を心配して声を掛ける。声を掛けられてカップルは目を瞬かせた。
「もしかして別の街から来た人?」
「そうだけど分かるの?」
「うん、今日は嘘をついていい日なの。その記念日のお祭りだから、本心じゃないわ」
その言葉を聞いてカイとマイルズは顔を見合わせる。
では、カッコいいと声を掛けられ続けていたのは嘘だったのか。
次に声を掛けられた時、カイとマイルズは全速力で逃げだした。街の外まで来ると肩を落として座り込む。
「俺たちってもしかしてカッコ悪いのか? 俺はマイルズよりはカッコいいと思ってたんだけど」
「おい! そんなわけないだろ」
「俺が100点だったとしたら、マイルズは98点」
「ん? 思ったより随分点数高いな」
「そう思ってたのに、2人ともダメだったなんて……」
「この街が合わなかっただけかもしれないし、理想の女の子目指して次の街に行こうぜ」
カイとマイルズは立ち上がり、隣の街に続く街道を歩く。
2人は気付かない。『嘘をついていい日』ではあるが『嘘をつかなければいけない日』ではないことを。
自己評価が間違っていないと知るのは、次の街でも同じように声を掛けられ続けてから。
最初のコメントを投稿しよう!