その声がいつか春に咲くとき

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 まさしく桜色の花びらが、はらり、と香織の頬にかかる。  えっ、と思って顔を上げると、青空が見える。心地の良い昼下がりに、なんとも言えない嫋やかで美しい桜の花びらが躍っている。  老木から落ちたものではない。もっと若い花だ。  今年芽吹いた、あるいは、つい数年前に花を咲かせるようになった木だろう。 「……あっ、ごめんなさ ──いっ?!」  香織は別の驚きに目を見開いた。あの少女が、老人が、いない。  あたりを見回すが、やはり二人の姿は見当たらなかった。香織が桜に目を奪われている隙に消えたにしては、あまりにも足が速すぎる。
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