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桜の花が咲いたら
「おい愛仁ー、律音ー、さあ出かけるぞー」
パパが僕たちを呼んだ。
今日は特別な日だった。パパとママと弟のリツ、家族全員で出掛けるなんていつ以来だろう。僕とリツは昨日から出かける準備をしていたので、居間に集合したときにはもう既に準備万端だった。二人でキャッキャとふざけ合う僕たちの様子を見て、キッチンからママが抱えきれないほどの大きなお弁当箱の包みを運びながらニコニコ笑う。
今日は家族そろって桜のお花見に行くのだ。
長い間の自然環境の変化や人間が施設の開発を行ったのが原因で、僕たちが住んでいるところは桜の花が見られなくなってしまったのだと、学校の先生が言っていた。以前は、この辺りでも普通に桜のお花見ができたらしいのだが、今ではそんな気軽にすることもできなくなってしまったのだとか。
「今日はごちそうだよ、奮発したからね」
お弁当などの荷物をパパの車に積むのを手伝っていた僕とリツに、ママがとびっきりの笑顔を向けて言う。
「ごちそう!?じゃあ、ハンバーグとか、お寿司とかもあるの!?」
食いしん坊のリツが、目をキラキラ輝かせてママに尋ねる。
「もちろん、あるわよ。あとリッくんが大好きな卵の黄金焼きも作ってあるからね」
「え、黄金焼き?やったぁ!」
本当にコイツは食い意地が張ってる。ま、そこが無邪気で可愛い奴なのだけれども。
「マァくんの大好物も入っているからね。まずは……」
ママは僕の大好きな食べ物をたくさん並べた。
「マァくんが好きなものばかりでしょ?あんまり嬉しくないの?」
そんなに作っても食べきれないよ、ったく。ママは張り切地過ぎだ。
「……ん?そりゃ嬉しいさ。でも」
「でも?」
「家族全員で出掛けるなんて、何かそっちのほうがワクワクしちゃって……」
「そっか。折角パパもそろってのお出掛けなんて滅多にないからね。うんと楽しまなくちゃ」
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