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「なるほど。確かに、桜は中尉たちのために咲いているんじゃない。桜は自分のために咲いているんだからな。潔、今日話せてよかったよ。すっきりした。ありがとう」
そう言われて、潔の心の中を温かいものが流れた。いつもなら、様子を見てすぐ東京にとんぼ返りをするのだが、今回は違った。
「父さん」
「ん?」
「明日、このホームのお花見の日だよね。一緒にお花見に行こうよ」
「よし、わかった。わだかまりが吹っ切れたところで、初めてのお花見とするか」
「じゃあ、明日を楽しみにしてるよ。今日はそろそろ帰るね」
「ああ、明日またな」
潔は軽い足取りでホームを後にした。
翌日のお花見が、潔と父親との最初にして最後のお花見となったが、潔にとってそれは忘れられない思い出になった。潔は、そのとき撮影した父親の写真を、告別式の祭壇に飾った。黒枠の中の父親は、満開の桜を背景にして満面の笑みを浮かべていた。
(了)
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