そこにあるお花見

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 ぼくの隣の家のそうくんはお花見に並々ならぬ熱意を持っている。  いつも春休みに入る前からそわそわして、天気予報を毎日チェックする。それをいちいちぼくに報告してくる。別に毎日見たって変わらないと思うのに。 「おれ、今年は超いいところ見つけたんだ」   テレビで開花宣言がいつか話題になる頃には、彼は場所決めに忙しい。下見までするから本気だ。駅前のロータリー、川の土手、サミットストアの駐車場。今年は、通学路をちょっと外れたところにある小さい公園が有力候補だった。  場所が決まれば物の用意だ。  そうくんにとってお花見はげんしゅくなる儀式だ。  まず絶対にいるのが、三色のお団子。甘くて茶色いやつじゃない。ピンクと白と緑のお団子だ。近所のスーパー、サミットストアには、アニメに出てくるような三色のお団子が売っている。仕入れ担当の人もお花見をするからなんじゃないかと思う。  それから三段のお重のお弁当。正確に言うとお弁当箱、だけど。中身を作るのは無理だから、去年は「ふんいきだよ」と空のまま並べた。  おせちみたいなそのお重のお弁当箱は、おばあちゃんのうちで発見したのだと、そうくんは自慢そうに話してくれた。お正月でもないし別にうらやましくはなかった。でも空っぽなのはいやだなと思った。それでぼくはお母さんに相談した。  チャイムを鳴らすとドアからそうくんの顔だけがひょこっと出てきた。同じマンションの隣だからそうくんの家には五歩で着く。 「おにぎり持ってきた?」 「うん」  ぼくはうなずいた。 「リュックに入ってる」 「よし。行こう」  ドアからそうくんの体も飛び出してきた。いつも着てる青いジャンパーとリュックで、もう準備万端だった。  儀式本番。  その一、レジャーシートを広げる。 「場所取りだ」  そうくんは言ったけど公園はがら空きだ。来たのは鉄棒と砂場だけある小さい公園で、ぼくたちはそこの桜の木の下の一番いい位置にシートを広げた。  その二、セッティングする。 「お重が真ん中。お団子が横。お茶は反対側」  サッカー日本代表の監督くらいテキパキと、そうくんはシートの上に指示を出す。  三色のお団子は家の中で見るよりなぜかおいしそうに見える。 「それからおにぎりだよ」  そうくんが三段のお弁当箱を開けたので、ぼくはリュックからおにぎりを出した。お母さんが作ってくれたちらしずしのおにぎりだ。 「うわーきれい!」  おにぎりを見たそうくんが言うからぼくもうれしくなった。ピンクに色をつけたレンコンと、黄色のきんしたまごと、緑のきぬさやだ。レンコンもきぬさやも普段は好きでもきらいでもないのに、ちらしずしだとパクパク食べてしまう。おすしだからかな。  何も入ってなかったお弁当箱の一番上におにぎりを並べた。二段目と三段目にはそうくんがアメとクッキーを入れた。ちょっとすかすかだったけどパーティーみたいになった。絵本で見たお花見だ! とぼくは思った。
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