そこにあるお花見

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 ゴトン、という自販機の音がして、歩いているあたしに琉が追いついてきた。 「何買ったの」 「カルピス」  歩きながら琉がペットボトルの蓋を開ける。二人のサンダルの足音がペタペタと鳴る。 「この道まっすぐ?」 「そうだと思う」  言い終わるより早く琉が「あ」と言った。  並ぶ家の合間がすぽっとひらけて、小さな公園が飛び込んできた。  手前に青く塗られた車止めの柵があって、その向こうに青と黄色の鉄棒、砂があるだけの砂場、周りは植え込みになっていた。その奥に、さっきベランダから見えた桜の木があった。  桜の木の下で、小学生の男の子が二人でお花見をしていた。端の方の花壇にはサラリーマンが腰を下ろしていた。手前で中学生くらいの女の子が桜にスマホのカメラを向けていた。 「ちゃんとお花見やってるね」  琉が楽しそうに言った。中に入って、女の子の手前くらいの位置で二人で植え込みの縁に腰かけた。 「カルピスちょうだい」 「はい」  空は日が暮れかけて白く、うっすら夕焼けのオレンジがかっていた。敷かれたシートの上で男の子二人が撤収の準備をしている。三段のお弁当箱を重ね、大きなハンカチで包む。水筒の蓋を閉め、それぞれ全てリュックに仕舞う。広げたシートをたたむところまでてきぱきしてて微笑ましかった。  中学生くらいの女の子はただ桜を眺めたり、また何か見つけたように何度か写真を撮ったりして、それから何か納得したように足取り軽く公園を出ていった。  サラリーマンはただ座っていただけだったけど満足そうだった。男の子が二人がかりでシートをたたんで帰り、女の子も帰ってしまうと、ゆっくりと立ち上がる。さっき男の子がいた木の下に来てしばらく桜を見上げた。写真を撮るわけでもなく、花の種類や咲き具合に興味がある様子でもなく、ただ花を見ていた。それからちらと腕時計に目をやった。それが切り替えのスイッチだったかのように、道路の方へ向き直ると、オフィスビルの間を歩くときの足取りになって公園を出ていった。  あたしと琉はそれからしばらくそこにいた。カルピスを飲んだり桜を見たり、桜とは関係のない話を二人でした。だんだんと日が落ちて桜の白っぽい色が浮かび上がっていくのを、見るというより、おでことか頬とか春の匂いで感じていた。  みんな、それぞれのやり方で桜を見ていた。桜の木はそんなことは関係ないようにただ咲いていた。
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