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母さんが用意してくれたおにぎりを、パクッと口に放り込んで、鞄から地図を取り出す。探しつくした場所にはバツを付けていて、もうすでに家周辺は真っ黒だ。
神様は優しいだけじゃなかった。僕は自分がどこに住んでいたか、それが思い出せない。だから町並みでイチコちゃんの場所を見つけることは出来なくて、唯一の手掛かりはイチコちゃんの匂いだけ。
姿かたちも僕が知っているイチコちゃんは小さな女の子だったけど、今はきっと立派な大人だ。当時五歳くらいだったはずだから、あの後すぐに戻ってこれたとしたら今は大学生だろうか? 社会人だろうか?
どんなに時間が経っても覚えているんだ。イチコちゃんの甘くて優しい匂い。犬の時ほど嗅覚は鋭くないけれど、きっとイチコちゃんとすれ違ったら、それで僕は気づける。
だけど、今のイチコちゃんと同じくらいの歳だろう女の人からは、変な匂いばかりする。あまりに強すぎて鼻が痛くなることがあるくらいだ。
イチコちゃん。早くイチコちゃんに会いたいよ。
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